メディアは数字で出来ている!  ①視聴率下落の意味

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2015.11.09

メディアは数字で出来ている!  ①視聴率下落の意味

 2015年度上半期(15年3月30日~9月27日)の視聴率競争は、日本テレビがブッチギリの三冠王となった。しかし日テレ幹部は、最近の視聴率状況を不安視している。日テレは好調だが他局の勢いは軒並み低調で、全体としてもHUT(総世帯視聴率)が減少傾向にあるからだ。「ベストは複数局が凌ぎを削る活性化した状態」という。地上波テレビの視聴率低迷の意味を考える。

HUTが異常下落!!

 今年度は5月頃から、「HUTが異常に低い」と視聴率を懸念する声が業界で囁かれ始めていた。確かに春先は例年になく厳しかった。関東600世帯では、前期比2㌽近くも下がっていたのである。HUTはここ数年下落傾向が続いている。それでも毎年の落ち幅は1㌽未満に留まっていた。ところが今上半期は、14年度の62.7%から61.1%と1.5㌽も下がってしまった(図1)。




 各局別に見ると、日テレ・テレ朝・TBSのG帯平均視聴率は0.1~0.3㌽の微増だが、NHK0.8㌽、テレ東0.5㌽、そしてフジも0.7㌽下がっていた。しかも視聴率は2年続けて後退している。対13年度上期比では、日テレのみ0.7㌽上げた。しかし他局は軒並み下がった。テレ朝1㌽減、NHK・TBS・テレ東が各0.3㌽減、その他視聴率0.4㌽減、そしてフジが1.4㌽の悪化で、全体としてHUTは2.3㌽の減少なのである。

 月毎のHUT推移でも、事態の深刻さは分かる。14年10月までは、多少の上下はあっても顕著な下落は見て取れない(図2)。ところが去年11月以降は変調が明白だ。前年同期比で1~2㌽下がった月は14年11月・今年3・4・6・7・9月、2~3㌽下がった月が14年12月と今年5月、そして3㌽以上の下落が今年2月。大半の月で1㌽以上と大幅下落を続けていたのである。




視聴率低下の原因

 視聴率の下落は、個別局に問題があると考えるのが順当だ。例えば日テレの毎年度上期の視聴率は過去5年で増加傾向だが、フジは一貫して下がり続けている。11年度比では3㌽以上も失っている。明らかに編成や番組に問題があると言わざるを得ない。しかし社会全体で見ると、映像情報の消費の仕方に変化が生じており、地上波テレビに逆風が吹いているという側面も否定できない。それを示すデータが近年幾つも出始めている。

 例えばNHK放送文化研究所「日本人とテレビ」は、過去25年間上がり続けたリアルタイム視聴が、過去5年で初めて減少に転じたと報告している。一因として録画再生視聴の増加がある。DVRを日常的に利用する人が国民の過半を超え、利用頻度も大半の世代で上がったのである(図3)。




 地上波テレビの視聴動向を調べている「テレビウォッチャー」(データニュース社)でも、録画再生の増加傾向は確認できる。同調査は各番組へのリアルタイム接触者数と、録画数を毎日調べている。それによると、各クールのリアルと録画再生の比率は徐々に後者が高くなっている。去年春クールでは録画が1.3倍多かったが、今春は1.4倍に伸びた。去夏の1.5倍も、今夏は1.6倍と伸びている。録画数は右肩上がりで増えていると言える。

 リアルタイム視聴後退のもう1つの要因は、スマホの急普及によるネット利用時間の増加がある。博報堂メディア環境研究所の「メディア定点調査」では、5年前と比べると1日当りのテレビ接触時間は20分減少し、スマホは76分増加した。そしてネット端末への接触合計が、テレビを初めて上回っている(図4)。




 前述の「日本人とテレビ」でも、同様のデータが出ている。「毎日のように」ネットに接触する人は、5年で9㌽増えて38%に達した。10代後半~40代では20㌽以上増え約60%に達している。

 またネットで動画見る人の中では、「テレビよりネット動画の方が面白い」と思う人が急増している。20代では過半が該当する。30代で45%、40代でも35%。しかも50~60代においても増加している。さらに「見逃した番組をネットで見る」「暇な時に何となくネット動画に触れる」人も増加している。テレビとネットの関係は、明らかにトレードオフになり始めている。

2台目以降のテレビが減っている!

 以上は全体傾向を中長期的に見た“テレビ苦戦”の実態だが、今春以降はより明確な視聴率下落の要因があると筆者は考える。各家庭における2台目以降のテレビが減っている点だ。図5を見て頂こう。2011年7月に地上波アナログ放送が終了したために、10年後半から11年7月まで、テレビの出荷台数は急増していた。居間にあるメインテレビが使えなくなると地上波テレビが全くみられなくなるため、大半の家庭が駆け込みでデジタルテレビに買い替えたからである。




 ところが12年以降、テレビの出荷台数は急減する。テレビメーカーの担当者は、「10~11年に12年以降のテレビの需要を先食いしてしまった」と弁解する。しかし筆者には腑に落ちない部分が残る。アナログ放送は終了したが、ケーブルテレビ経由でデジアナ変換が15年3月まで続いていた。この恩恵を受けて稼働していた各家庭の2台目以降のテレビは1000万台ほどあったはずだ。ところが、これらが使えなくなった今年3月末前後でも、テレビの出荷台数はほとんど増えなかった。

 ここから推測されるのは、2台目以降のテレビを必要としない家庭が増えているという事実だ。今春テレビの出荷が増えなかったのは、デジアナ変換終了で使えなくなるアナログテレビの買換えを多くの人が行わなかったことを意味する。結果として大量のテレビが稼働しなくなり、リアルタイム視聴の機会が減ったと考えられる。これが視聴率急落の一因だ。

求められる“発想の転換”

 自室や寝室では、テレビの代わりにスマホやタブレットで動画視聴やアプリ利用の人が増えている。某ネット企業のログ分析では、深夜はメールやSNSの他、翌日の予定をチェックするためのスケジュールアプリと動画視聴が多くあっているという。明らかに2台目テレビの出番は減ってしまったのである。

 テレビ業界では今、リアルタイム視聴を促すための取り組みが盛んだ。もちろん、こうした努力は必要である。しかし同時に、生活者がテレビからネットへ比重を移しているという事実が否定できないのなら、その現実を受け入れた次の一手も不可欠だろう。キー5局の民放公式ポータル「TVer」が先月下旬にスタートしたが、ネットへの展開もマストだ。

 キー5局について、2015年度上半期の決算が出そろった。視聴率が好調な日テレを除き、他4局の広告収入は軒並み減少してしまった。地上波テレビの媒体価値の相対化が明らかに始まっていると見るべきだろう。正しい時代認識に基づき、最善の手を打つ。さもなくば生き残れない、厳しい時代に入ったと覚悟すべきだろう。