“死ねばいいのに”と思ったやつが本当に死ぬ…恐怖の疑似体験ドラマ「わたしを離さないで」

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2016.03.01

“死ねばいいのに”と思ったやつが本当に死ぬ…恐怖の疑似体験ドラマ「わたしを離さないで」

 どんな人でもその大小に関わらず “死ねばいいのに”と思った経験があるでしょう。

 その“死ねばいいのに”と思ったやつが本当に死んでしまうという、スッキリするようで全然しない、そんな疑似体験ができるのが綾瀬はるか主演「わたしを離さないで」(TBS・金曜よる10時)だ。

 

 本作はイギリスで流行ったらしい(ミリオンセラーらしい)、英国のヒットSF小説が原作で、『臓器提供するためだけに育てられた人間=“(臓器)提供者”が存在する世界』というのがSF風味を醸す、一風変わったヒューマンドラマだ。

 日テレ土曜9時で堤幸彦監督あたりが作ったら、外連味たっぷりで、少年少女たちでも観られる(「未満都市」的な)雰囲気に仕上げそうだが、さすがのTBS金曜ドラマ。SFのありえない世界にも関わらず外連味を一切排除、丁寧かつリアルな映像で、臓器提供者である登場人物たちが、ただひたすら死に向かうという、とてつもなく暗くって、大人も目を背けるほどの、正直何を楽しめばいいのかわからないドラマに仕上げた。

 だがようやく“最終章”と謳った第7話に入り、ようやく(僕だけかもしれないけど)何を描きたいのか?何のためのドラマなのか?が見えてきた。

 それは『“死ねばいいのに”と思ったやつが本当に死んでしまう』を疑似体験させるドラマということだ。

 

 このドラマで登場する水川あさみ演じる美和はとにかく嫌な女。

 主人公の親友を装い、人の大事なものを盗み、男も奪い、そして束縛し支配するという、リアリティあふれる嫌なキャラクターで、それが非現実的なSFの世界で描かれることでよりそのリアルが際立ち、3割増し(?)の嫌な女に仕上がっている。だから視聴者の多くは、こいつ=水川あさみ“死ねばいいのに”と思わされる。

 だがふと気づく、これは“臓器提供=死”へとつながるドラマだということに。

 

 このドラマは民放作品では珍しく、主演女優がなかなか登場しない少女編から始まり、青年編、そして最終章・現代編へと、じっくり丁寧に人間ドラマを描いてきた。その効果で“臓器提供”という設定が登場しても、飛び道具としか思えずなかなかそれを実感できずにいるのだが、最終章で “(臓器)提供”が具体的に進んでいくと、“死”へと向かうドラマなんだとようやく実感させられる。

 序盤の丁寧すぎるくらいの描写は、この“死”をより強く実感させるために向けられた壮大なフリだったのだ。

 大抵のドラマは “死ねばいいのに”と思うやつほど死なない。寧ろなんでこんないい人が…という人が死ぬことで不条理のドラマを生み出すのだが、そもそもこのドラマは“臓器提供”によって誰しも死ぬという不条理のドラマ。このドラマにおいて、いい奴が死んだところでドラマは生まれない、ならばどうするか?“死ねばいいのに”と思わせた人物が本当に死んでいくとき、登場人物は(そして視聴者も)どう思うのか?という裏の裏をついたドラマが生まれるのだ。

 現実に置き換えても、“死ねばいいのに”と軽はずみには思っても、本当に死ぬことは想像しないし、できないものだ。それを連続ドラマにしかできない丁寧な描写を使って、視聴者に疑似体験させようとしているのだ。

 偉そうに断言したわりに、何が言いたいのか意味不明になってきたが、

 前期の夢たっぷりの月9「5→9」が好調で、今期のリアリティ重視の「いつ恋」が低迷していることからわかるように、テレビドラマは特に物語の中だけでも夢のような世界に浸りたいと願う視聴者が多い。そんな中、こんな後味悪すぎる世界を疑似体験させようとするこのドラマに、制作者のクリエイティブ魂を感じる。

 これだからテレビドラマ好きがやめられないと強く思う作品だ。